2012年10月20日土曜日

もうひとつの権力闘争、中国国有企業の光と影

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ロイター 2012年 10月 19日 14:06 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE89I03A20121019

焦点:もうひとつの権力闘争、中国国有企業の光と影

 [香港 17日 ロイター] 
 来月、指導部交代を控える中国共産党が、大胆な改革に踏み出している。
 巨大国有企業の独占解体だ。
 しかし、国有企業の抵抗は激しい。

 大手国有企業の中でも、特に強大な力を持つ送配電会社、国家電網公司――。
 7月31日、インドが2日連続で大規模な停電に見舞われると、同社の劉振亜・総経理(党中央候補委員)は、すかさず北京に管理職を集めた。
 緊急会議の議題は「いかにしてインドの二の舞を避けるか」。
 劉総経理が下した結論は「送配電事業の独占を崩してはならない」というものだった。

 国家電網公司は、11億人に電力を供給する世界最大の公益会社だ。
 送配電網は中国全土の9割をカバー、従業員は160万人に達する。

 「単一企業だからこそ安定した電力供給を実現できる」――。
 故郷の山東省でエンジニアとして出発し、したたかな政治力で巨大組織のトップに上りつめた劉総経理が、現状維持を望むのは想像に難くない。
 しかし、目を引くのは、劉総経理が指導部に公然と反旗を翻していることだ。

 温家宝首相は今年、
 「鉄道・電力産業などの改革を進め、非国有経済の発展を促す政策を実行・完成させる必要がある」
と表明、独占事業の解体に乗り出した。

 巨大な国有企業をめぐっては、汚職・浪費・消費者への価格転嫁など、弊害を指摘する声が多く、来月の党大会で正式に決まる新指導部も、温首相の方針を基本的に踏襲するとみられている。

 薄煕来・前重慶市書記の解任劇で内部の権力闘争が露呈した共産党には、非効率な国有企業を解体し、経済の活性化を図る強い圧力がかかるとみられるが、同党は、経済面でも深い亀裂を抱えている。

<共産党が生んだ怪物> 

 日に日に強大になる国有企業は、共産党が生み出した「怪物」だ。

 90年代に勢いを失った国有企業は、公有制を経済の主体とする党の方針を追い風に、その後の10年で再び息を吹き返した。
 現在、国有企業とその関連会社は、国内の生産と雇用の半分以上を生み出している。
 米経済誌フォーチュンの2012年版世界企業500社にランクインした中国本土企業は70社。
 うち65社が国有企業だ。
 劉総経理が率いる国家電網公司は世界7位に位置する。

 エコノミストは、肥大化した国有企業がイノベーションを妨げ、民業を圧迫していると批判。
 「今後、輸出の伸び悩みが予想されるため、国有企業の独占を崩し、民間の潜在力を活かす必要がある」(中信証券のチーフエコノミスト、諸建芳氏)
との見方が多い。

 ただ、共産党が公有制の根本的な転換や、巨大国有企業の民営化を検討しているわけではない。
 党が目指しているのは、大企業の分割や、現在国有企業が独占しているエネルギー・通信・鉄道・銀行業への民間資本の導入だ。

 国家統計局の邱暁華・元局長は
 「新指導部は、現在国有企業が独占している一部の産業に競争原理を導入する可能性がある」
としながらも
 「公有制を経済の主体とする基本原則から外れることは絶対ないだろう」
との見方を示した。

 新指導部が大手国有企業との対決姿勢をどこまで強めるかは、まだ不透明だ。
 ただ、複数の規制当局筋は、次期最高指導者への就任が確実視されている習近平副主席などの経歴を踏まえると、民間を活用する方向で改革を進める公算が大きいと指摘する。
 習氏は、市場経済が発達する福建省・浙江省・上海市でトップを務めた人物だ。

 もっとも、国有企業も強大な権限を握っている。
 大手国有企業は、国有銀行からほぼ無制限に融資を受けられ、国の重要産業を独占。
 そのトップは共産党内で要職を担い、政治的なコネクションも豊富だ。
 劉総経理も、党の最高指導機関である中央委員会で候補委員を務めている。

 党の中央理論誌「求是」は先月、国有企業批判は中国経済をおとしめようとする欧米の陰謀だとする論文を掲載。
 「民営化が事業独占の問題をすべて解決すると夢想してはならない」
と論じた。

<銀行の競争>

 銀行業界では今年、改革派が白星をあげた。
 6月7日、中国人民銀行(中央銀行)は預金・貸出金利の一部自由化を発表。
 預金者や融資先の獲得で、銀行に競争を促した。

 改革を主導したのは、ここでも温首相だ。
 首相は4月「銀行があまりにもたやすく利益を得ている」として、改革の必要性を訴えていた。

 ただ、関係筋によると、この改革は国有銀行の激しい抵抗にあった。
 発表の数日前、北京で開かれた極秘会議では、改革を進める周小川・人民銀行総裁に、国有銀行幹部が激しく詰め寄った。
 会議に出席した中国銀行の肖鋼総経理は感情的になり、金利自由化は銀行業界を危機にさらすと、何度も机を叩いて訴えたという。

 大手国有銀行は98年以降、相次いで政府の救済を受けた。
 2008年には4兆元の大型景気対策を支えるため、政府の指示で大量の融資を実施。
 その結果、不良債権が膨らんでいる。

 中国では、劉志軍・前鉄道相が収賄容疑で解任されるなど、独占事業に絡む汚職の問題も指摘されている。

 国家電網公司の前身である国家電力公司でも、2002年に贈収賄疑惑が発覚。
 劉氏の上司だった高厳・総経理が国外に逃亡した。
 同社では帳簿操作・裏金作り・経費水増しなども明らかになり、複数の幹部が逮捕された。
 高厳・元総経理は今も逃亡生活を続けている。

 不正発覚後、政府は電力業界の改革を断行。
 国家電力公司を発電事業と送配電事業に分割した。
 この分割で誕生した送配電会社が、劉総経理率いる国家電網公司だ。

<さらに大きく>

 政府内では、国家電網公司の分割論が浮上している。
 送電会社と配電会社に分割する案や、地域ごとに事業を分割する案などが検討されており、国務院(内閣)は今年、送電・配電事業の試験的な分割を指示した。
 ただ、試験がいつ実施されるのか、実際に試験が行われるのかも不明だ。

 対する劉総経理は、国家電網公司をさらに大きくするという大胆な対案を掲げている。

 国際会議の常連でもある劉総経理は、送電ロスの少ない超高圧(UHV)送電網の導入や「スマートグリッド」などの必要性を内外で強く主張。
 送電業界の未来を切り拓く先駆者としてのイメージをアピールしている。
 共産党機関紙・人民日報は「今年のエネルギー業界の顔」に劉総経理を選んだ。

 UHVは技術的な課題が多く、導入費用も高額。
 大規模な送電網では利用実績に乏しいが、劉総経理は長距離送電に革命を起こすとして、全国を横断するUHV送電網を最大20区間建設する構想を掲げている。

 専門家によると、総工費は最大2500億ドル。
 この壮大な構想が実現すれば、国家電網公司の独占力が一段と強まるとの見方も一部で出ている。

 認可権を持つ国家発展改革委員会は、これまでのところ、同社が申請したUHV送電網のうち5区間しか認可を出していない。
 経済性、技術上の問題、環境への影響などをさらに調査する必要があるというのが、委員会側の主張だ。

 調整はまだ続いているが、劉総経理は、国家電網公司にとって良いことは中国にとって良いことだという持論を繰り返し、同社の独占を維持すれば、送配電会社が乱立するインドのような大規模停電は起きないと政府関係者に訴えている。

 ロイターは劉総経理に取材を申し入れたが、国家電網公司からの回答はなかった。

 国家電網公司の社員に劉総経理の主張について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
 「会社が大きいかどうかはあまり関係がない。大切なのは健全かどうかだ」――。

(Charlie Zhu, David Lague 記者;翻訳 深滝壱哉 編集 加藤京子)







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